第14回ステラジャム(国際ジャズオーケストラ・フェスティバル)は、大学27団体、中高8団体が出場。富士山麓河口湖ステラシアターにテーマ曲『スターブリッジ』が鳴り響き、今年もビッグバンドの祝祭が華やかに開催されました。
課題曲『DOWN FOR THE COUNT』(作曲:Nick Lane)はミディアムスイング曲。最終部分で曲調がboogalooに変わり、大いに盛り上がって終わります。指定テンポは「110」で、これより速いと減点の対象となります。
そして今年のステラジャムについて特筆すべきは、課題曲テンポオーバーのバンドが続出したことでしょう。参加35団体中16団体が課題曲で減点対象となりました。
ステラジャムの基本コンセプトは「Get Better!」ですので、あまり競争意識をあおるのは本意ではありません。しかしあえてコンテストとしての側面に注目してこれを「勝負」と見るなら、課題曲を軽視することは戦略的な失敗だと明言できます。
公開されている審査票からおわかりいただけるように、課題曲1曲分と自由曲2曲分の配点は同等です。3曲分を合計した総合得点の50%を課題曲が占めるわけです。したがって課題曲で点数を得ていない場合、上位団体(ノミニー7)に入る可能性は低くなります。
今年の総合点を分析すると、トップから7位までの差はわずかに7.75点です(100点満点換算)。テンポオーバーの減点が総合順位に大きく影響することが理解いただけるでしょう。
課題曲はアイデア次第でいろんな表現が可能な楽曲です。今後は「作戦として」課題曲に注力することを考えるのも一案です。たとえば主力メンバーを課題曲に配し、その練習時間を大幅に増やすなどです。課題曲を3曲目に演奏するのも斬新に聞こえるでしょう。
自由曲では、各バンドが多彩な選曲や演出を繰り広げました。与えられた15分間をひとつの「ショー」と考え、司会、進行、聴衆とのコミュニケーションを総合的に組み立てる楽団が見られました。ビッグバンドが「芸術」であり「エンタテイメント」でもあることを確認する場として、ステラジャムが機能しているようです。
ベストMC賞は2年連続でLa Orquesta De La Costa(広島叡智学園中学校・高等学校)が受賞しました。しかも森田晶、櫻井和奏という同じ2名。彼女たちのトークから他のバンドは学ぶことがたくさんあるはずです。
「オントランペット誰それ、オンピアノフォルテ誰それ」という紋切り型のソロイスト紹介や、絶叫盛り上げ系の司会を、そろそろ見直す時期が来ているのではないでしょうか。バンドや楽曲について情熱的にあるいは静かにプレゼンテーションする、そんなスタイルを研究することで、MC賞争いはさらに創造的な場になると考えています。
総合点上位7団体(ステラジャムノミニー7)は、順不同で以下の団体がノミネートされました。Blue Stars Jazz Orchestra(愛知大学)、Swing Arcade Orchestra(大阪大学)、北陵ウインドアンサンブル(神奈川県立茅ヶ崎北陵高等学校)、Royal Sounds Jazz Orchestra(青山学院大学)、Light Music Society、Los Guaracheros(東京工業大学)、甲南ブラスアンサンブルKBE2024(甲南高等学校)。それぞれに独自の音楽性を追求し、演奏技術を磨き上げたことが印象的でした。
審査員別に総合得点を分析すると、ステラジャムチャンピオンを獲得したRoyal Sounds Jazz Orchestra(青山学院大学)に1位を付けたのは6名の審査員のうち3名で、あとの3名は異なるバンドを1位と評価しています。
課題曲の採点を分析すると、Royal Sounds を1位と評価した審査員は2名、他の4名中2名は別のノミニーバンドを1位とし、1名はノミニー選外バンドに最高評価を与えておられます。
さらに興味深いのは自由曲で、ユニークセレクション・チャンピオンとなったLos Guaracheros(東京工業大学)は審査員6名中3名が1位評価ですが、他の審査員はそれぞれ別のバンドを1位としています。音楽性が多様化したことで、審査員各人の嗜好が反映されたものと思われます。
とはいえ、ステラジャムの一貫した目標は「GET BETTER!」です。他者との比較ではなく、去年の自分から今年の自分へ、そして来年の自分へとステップアップをめざすことを重視します。6名の審査員が収録した自分たちへのリアルタイムコメントを聴き込んで、さらに他バンドへのコメントと聴き比べて、研究を重ねていただければ幸いです。
ステラジャム 3日目は富士急ハイランドへ会場を移し「JAZZ Q」というフェスティバルを開催。リサとガスパールタウン噴水前、トワトモ広場、園内FUJIYAMA前広場の3箇所において、ビッグバンド23団体とコンボが演奏を披露する予定でした。残念ながら昼過ぎから雨天のため、いくつかの演奏は中止となりましたが、演奏前後には園内でアトラクションを存分に楽しんでいただきました。
雨が上がった後、リサとガスパールタウンでは自然発生的にセッションが始まり、ビッグバンド演奏のできなかった学生や生徒たちがコンボを楽しんでいました。初期のジャズはきっとこんな感じで思い思いに演奏したのだろうと思わせる、じつに心温まる時間でした。
GET BETTERの姿勢は出場者も、審査員も、我々運営スタッフも同じです。さらに洗練されたフェスティバルへと一緒に成長していきましょう。教育イベントとして、競技として、そしてエンタテイメントとして、これからも成長できれば幸いです。
総合プロデューサー 黒坂洋介