1.課題曲

ジャズという音楽に「課題曲」がなじまないと考える人は少なくありません。しかしステラジャムではミディアムスローのスウィング曲をひとつの「基本」と考え、その基本をきちんと押さえるために課題曲制度を設けています。全参加バンドが同一曲を演奏することで、基礎技術を公平に評価できるというメリットがあります。Get Betterの「基準点」を確認し共有するのが課題曲の主たる目的です。


また、課題曲が存在することによって自由曲がよりバラエティに富むという逆説的な側面もあります。対比する基準が明確であるから多様性が活きてくるわけです。曲を単体で考えるのではなく、ショー全体の構成に思いを巡らす。その能力を磨くための要石(キーストーン)として課題曲を活用できるのです。

2.リアルタイムコメント

各バンドが持ち時間15分で課題曲と自由曲を演奏します。6名の審査員はその間、演奏を聞きながら、マイクからリアルタイムコメントを録音していきます。その結果、6つの角度から分析したコメントが残ります。各バンドは90分(15分x6名)のクリニックを受講したのと同様の情報が得られるわけです。


2024年の参加は35団体でしたから、全部で210本(6本x35団体)のコメントファイルがあります。その総時間数は、52時間30分(3150分=15分x210本)にもおよびます。そしてそれらはすべて、ステラジャムのホームページで公開されています。


ステラジャム出場団体はこれらのコメントを聞くことによって、ジャズ合奏の注意すべきポイントを学ぶことができます。リアルタイムコメントには、いろんな活用法が考えられます。コメントを聴いて、まずは自分たちのバンドの長所と短所を洗い出す。つぎに上位バンドのリアルタイムコメントと聴き比べることで、今後の練習方針が明らかになってくるでしょう。


さらに進んだ使い方として、ひとつのバンド(自バンドでも他バンドでも)について1年前のコメントと今年のものを聴き比べるという方法があります。1年間の成長や、なかなか直せない課題などを確認するのです。この「歴史解析」をすることで、来年への成長戦略を立てやすくなるはずです。他者と競うのではなく、ひたすら自分の成長を追求する。合言葉は つねに「Get Better」です。

3.生音

ステラシアターは3000席の大きなホールですが、ピアノ、ソロ、MC以外は基本的に生音です。アンプにもマイクは立てず、ライン出力もしません。会場スピーカーにもモニタスピーカーにも、上記(ピアノ、ソロ、MC)以外の音は出ませんので、生音を聞きあって演奏します。また生音を会場にどう届けるかという視点で演奏することになります。


生音については、さまざまな意見があるかと思います。管楽器にも1本ずつマイクを立て、リズム楽器もすべてマイクで拾う、いわばレコーディングスタジオのような環境を理想とし、ホール演奏もそれに近づけるべきという考え方があるのは承知しています。


それがひとつの理想の極とすれば、もうひとつの極は「生音」であるとする考えもあります。また、管弦楽団のようにホールそれ自体を楽器の一部と考え、「完全な」音響が保証されない会場では良い演奏ができないとする姿勢もあるでしょう。


しかしビッグバンドという形態は、ダンスホール、テレビスタジオ、ライブハウス、商業施設、野外など、さまざまな場面で演奏することが要求されます。いかなる環境にも適応できる能力が、ビッグバンドに求められる基礎スキルのひとつであるとする意見もあります。


ステラジャムでは生音をひとつの理想と考え、生音のアンサンブルを磨くプロセスに多くの学びがあると考えます。


昨今のビッグバンドは大きなホールで演奏する場合、たいてい音響設備が整っていることでしょう。しかし、その現状自体をステラジャムは理想的とは考えていません。


逆に会場の大小を問わず、PAを通すことなく生音を体験できる環境をもっと増やすべきであり、それゆえ学生ビッグバンドに対しても、PAに頼れない演奏の場を提供することに意義があると考えています。PAで作りすぎた音が「当然」となってしまっている現状を憂いているわけです。


このことは少なからぬプロミュージシャン、音響エンジニア、舞台関係者、ジャズ指導者などから賛同を得ています。学生ビッグバンドの常識が、音楽界全体の常識と一致しない場合もあります。常識を疑うこともまた重要な学びですので、ステラジャムという場を使って、参加者も運営者も相互に試行錯誤を重ねる必要があるでしょう。


ステラシアターという難しい環境において生音で演奏することは、くふう次第でGet Betterにつながるものとステラジャム実行委員会では確信しています。実際にそのように感じておられるバンドもあります。もちろん簡単なことではありませんので、リアルタイムコメントを聴き込んで、会場特性とサウンドの関係を学んでいただきたいと考えます。


PAで作ったサウンドを理想とし、それに合わせた音量を求めるならば、ステラジャムが求めるものとは異なります。生音主義を通じてステラジャムがめざすのは、フォーカスが効いたコアのあるサウンドです。それは騒音的なパワーではなく、音量的にはスッキリしていて、しかも迫力を感じさせる演奏です。


これも簡単に達成できるものではありませんけれども、Get Betterのテーマとして研究し取り組む価値のある目標と考えています。そのためには優れたバンドの生音をたくさん聞く必要があるでしょう。ステラジャムは、その貴重な体験ができるチャンスととらえていただければ幸いです。


以上の説明からおわかりいただけるように、ある文脈において、生音主義はきわめて重要であるというのがステラジャム実行委員会の結論です。生音の重要性が理解されていない現状に対する問題提起をも含んでいるのです。

4.コンダクター

ステラジャムは第1回から一貫してコンダクターが立つことを推奨してきました。その意図に賛同するバンドも少しずつ出ています。彼らを積極的に評価することは、ステラジャムの責任であると考えています。そこで、第11回(2019年)から、課題曲については、指揮者が立つことをルール化し、コンダクティングを採点対象としました。


コンダクターによってバンドがまとまり、演奏が良くなる経験をしたことがなければ、コンダクターの意義は理解できないはずです。ステラジャムでは、その機会を提供することをめざしています。


特にテンポオーバーが減点対象となる課題曲では、コンダクターを最大限活用し、Get Betterに役立てていただければと思います。また、生音の音量バランスについても、コンダクターが立つことはプラスに働くでしょう。


なお、コンダクターの出場資格については一切制限がありません。年齢制限もありません。上級生でもOBでもプロでも構いません。

5.教育優先

ステラジャムのテーマは「Get Better !」。他団体との順位争いよりも、自己の上達を優先する教育イベントです。したがって、ノミネートされた上位数団体とチャンピオン3団体以外は発表しません。上位ノミネート団体についてもグランプリ以外の序列は公表されません。

6.公平性

審査員は6名の現役ミュージシャンで、それぞれ楽器はトランペット、トロンボーン、サックス、ベース、ドラム、ピアノです。6名のうち最高点と最低点はカットされ、中間4名の合計で審査されます。感覚的にわかりやすくするため、最終的には4で割って100点満点換算します。


課題曲総得点は課題曲得点の中間4名合計点(A)、自由曲総得点は自由曲得点の中間4名合計点(B)です。また、総合得点は総合得点の中間4名の合計点(C)となります。どの審査員の採点がカットされるかは、課題曲、自由曲、総合のそれぞれで異なるため、A+Bの合計とCは異なります。そのため、A+BのほうがCよりも大きくなる場合もあり得ます。


Stellar Jamチャンピオン(グランプリ)は総合得点の中間4名の合計で評価されます。A+Bの合計では順位が逆転する場合がありますけれども、グランプリはあくまでも総合得点における最高点と最低点カットで決まります。そしてA+Bのほうは「参考値」という扱いです。


つまり、課題曲レース、自由曲レース、総合レースという3つの独立したレースを競っていると考えていただければ結構です。ただ、「競っている」と言っても、他団体との順位争いよりも自己の上達を優先するのが「Get Better」の精神です。したがって、A+BかCかという比較よりも、今年のAと来年のAを、今年のBと来年のBを、あるいは今年のCと来年のCを比較して、自身の成長を確認することのほうを、ステラジャムでは重視しています。

7.多角的評価

自由曲では技術力だけでなく、ショー性、構想力、オリジナリティなどを評価します。ユニークさを競い合うためです。また、ベストセクション賞、ベストSR賞、モーストインプレッシブプレイヤー賞などを設け、さまざまな角度から評価を行ないます。そして課題曲の優勝バンド、自由曲の優勝バンド、総合優勝バンドの3種チャンピオンを選出します。

8.著作権

著作者へのリスペクトを育みます。譜面に手を加える場合はもとより、出版されていない曲については採譜(耳コピ)して演奏するにあたっても、著作権者の書面での許可が必要となります。コピー譜の使用はもちろんNG。かならず自分のバンドで購入した譜面の使用が求められます。

9.時間管理能力

課題曲は指定テンポを超えて速く演奏すると減点対象となります。また、持ち時間を超えた演奏はタイムオーバーとして減点されます。これらの情報は運営スタッフ間でLINEによってリアルタイムに共有され、審査に反映されます。音楽家に必要な時間管理能力を育てるためのルールです。

10.バンド間の交流

交流パーティーを兼ねた初見大会というイベントを用意しています。各バンドから選出された混成メンバーのセレクトバンド数団体によって勝敗を決します。また、JAZZ-Qと称して富士急ハイランドでの演奏機会もご用意しています。


ステラジャムテーマ曲の「Star Bridge 〜星空にかける橋〜」が繰り返し流されて、出場団体の連帯を強めます。Star Bridgeにはロックボーカル版、ラテン器楽版、ラテンピアノ版、サックスコンボ版、アカペラ版、ディスコ版などさまざまなバージョンが存在します。表彰式の得賞歌には、この曲のバラードピアノ版が使われています。


このほかにも透明な記念楯やトロフィー、参加賞としての集合写真などオリジナルグッズをご用意して、ステラジャム体験を思い出深いものにしています。

まとめ

937年にグレン・ミラー・オーケストラが結成されてから80年以上。ビッグバンドという形態は、歴史的にも、地理的にもさまざまなバリエーションが生まれており、いかなる考えもけっして「これが正解」とは言えない状況です。


テーマ曲 STAR BRIDGE の歌詞に「正しさそれは幻想、ただのサンドグラス」とあります。正解のように見えても、それは砂時計(サンドグラス)の砂のように、時とともに形を変えてゆく。でも「レースははてしもなく、まわるつづく」のです。


Get Betterは回り道の連続。それは出場者である学生バンドも運営者である実行委員会も同様です。したがって、ステラジャムはつねに「変わり続けて」いくと思います。一時的にあるいは部分的に考え方が違うことがあっても、「変化と多様性」を重視したステラジャムを応援していただければ幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。

ステラジャム実行委員会  2025年4月